高校時代の通っていた塾の英語の先生が話していたエピソードで最近ふと思い出したことがありました.それは,日本にいたときはアメリカにとてもあこがれていて,AFN(当時はFEN)を毎日聞き続け,洋楽のヒットチャートとかを欠かさずチェックしていたような人に限って,お金もたまるようになって,いざ渡米するとアメリカ嫌いになって帰ってくる,というお話です.
実際,僕の身近な人でもそれまでは完全にアメリカバンザイ状態だった人が渡米してしばらく暮らした後,日本に帰ってきてからは,昔とはちょっとアメリカに対するイメージが変わったと言っている人もいたりします.
僕は,いまだかつてアメリカ大陸に上陸したことはなく,ハワイにもいったことのない人間なのですが,なんとなくその気持ちはわかるような気がします.
僕の場合は,別に滞在した国がもともと好きだったわけでもなく,滞在した後に嫌いになったというわけでもないのですが,むしろ日本の文化を好きになったとか,自分が世界のアジアの中の日本人であることを強く意識するようになり,自分が日本人であることを少しだけ誇らしく思う機会が増えたという,ポジティブな変化があったということです.
日本にいれば当たり前のようなことが,違う国では非常に貴重なことであるということを,海外に滞在するたびに気づかされることが多いのですが,それがきっかけになっているように思います.
どんなことかといえば,例えば,街がきれいなこと,食事が美味しいこと,映画の心理描写が非常に深いこと,時間に正確なこと,安全なこと,得体の知れない病気が少ないこと,水道水が飲めること,テレビの映りがいいこと,道路の舗装がきれいなこと,夜遅くまでお店が開いていること,休みでもお金がおろせること,電車で居眠りできること,2つ以上のことを同時に頼んでもきちんと全てこなしてくれること,とまあ挙げればきりがないですが,本当にちょっとしたことなのです.
きめ細かい気配りとか,清潔さとか,正確さとか,ほかの文化からすれば,過剰するぎるまでの神経の使いようが,かえって日本人特有の窮屈さを生み出していることも否定しませんが,僕はこの日本人の気質を誇りに思いますし,そういう信頼関係を前提に社会が成り立っていることを非常に貴重なことだと思っているのです.
一方では,たまに,とてものんびりした気分にさせてくれる東南アジアのリゾートとかに旅行をすると,日本で仕事をしていた自分の姿を省みて,人生を本当に楽しんで生きているのかとか,毎日コンピュータの前で一日中座り続け,仕事をすることがばかばかしくなってきてしまうような瞬間もあることも事実です.
でもやっぱり,幽玄,わび,さびの文化とか,なにかにつけストレートに表現しないところでさりげなく主張する,日本人の美意識がとても好きな僕としては,自分が日本人であることを大切に思いたいなと感じるのです.