暗譜のコツ

大学時代にオーケストラで活動していたとき,トレーナーの先生は,演奏会に臨む心構えとして,演奏する曲は当然のように暗譜をして弾けるぐらいになっていなければ,舞台にあがる資格は無いと断言していました.

この論理は,言うまでもなく正しく,実際演奏していても,暗譜できていて,楽譜から目を離して全体を見回しながら演奏できているときの音色は,明らかに譜面にかじりついているときとは質が変わるということは,今までの経験から確信が持てることです.

でも,僕は昔から暗譜が苦手で,相当気合いを入れないと覚えることができません.今回の演奏会でやる曲も,メロディーはばっちり頭に入っているのですが,頭に描いた音が楽譜を見ずに演奏できなくて歯がゆい思いをする箇所が多くあります.

パソコンを使い始めたとき,ブラインドタッチができなくて,自分の書きたい言葉が次々と頭に思い浮かぶのにそれを入力できなくて思いついた言葉を書き記す前に何を書こうとしていたのかを忘れてしまい,非常に残念に思ったことがありますが,それに似た感覚です.

当時はブラインドタッチができたらどんなに素晴らしいものだろうと思ったものでした.今ではおかげさまで日記を自分の思い描いた文章のスピードで打ち込めるようになったので当時の基準で考えれば,これはとても幸せなことなのかもしれません.

基本的に暗譜って非常に直感的に指や腕が動く感覚なので,何か理性を持って自分の行動を分析する視点が入ると途端にわけがわからなくなり,そこで演奏が破綻します.今はアップボウなのかダウンボウなのかとか,「どのポジションで弦を押さえるんだっけ」とか思っちゃうとそこで終了です.

英語を流暢にしゃべれるときには,文法のことや日本語→英語の単語の変換,構文なんか考えなくても自然と口をついて言葉が出てくるのと同じ.結局,暗譜して演奏しているときって呼吸するように意識せずとも体が自然と動く感覚になっているのです.

そういうとっても調子のいい状態になっているときには,一瞬ふと我に返ったりすると,自分の体の一部なのに自分の指が自分のものではなくて,何か勝手にモジャモジャ動いている不思議なものに見えてきます.そして「自分の指が勝手に動くなんて,とても不思議だなぁ」と思い,次に「そういえば,次どうするんだっけ...」と考えた瞬間に演奏が続けられなくなります.

こう考えると,暗譜するコツって何か頭でっかちになって自分の思い通りに動かし,演奏をコントロールしようとか考えるんじゃくて自然に動く体に気持ちを委ねて自分は無心になっているのがいいんじゃないかなぁと思います.

自分が暗譜が不得意なのは,常に自分自身を理性でコントロールしようと考えていすぎるからなのかなぁと,思います.

ちなみに,オケでは自分の思い通りに演奏しちゃうと,周りの演奏者(まあ,一種のルールのようなもので奏法を揃えることを求められている,社会みたいなもの)と食い違う可能性が生じるので,決まり事と自分自身の直感とのバランスをとらなければならず,大学オケ時代は,その感覚が窮屈だなぁと思ったものでした...

今は,そのバランス感覚がかなり身についてきたので,ルールの中でいかに自分の演奏をするかの余地を見出せるようになり,オケに参加すること自体を楽しめているんだろうと思います.

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